森のひとりごと

カラスに告ぐ

 富山市は城址公園内にカラスの侵入禁止看板を設置した。カラスは文字を読めないのだから看板に意味があるのかと訝(いぶか)る人が多いと思うけれど、それなりのねらいがある。本稿ではその背景をお伝えしたい。

 城址公園の周辺では夕方になるとたくさんのカラスが集まってくる。公園内の樹木だけではなく、ビルの屋上などにおびただしい数のカラスが羽根を休めることとなる。このカラスたちは早朝に餌を求めて飛び立ち、市域を超えて飛び回り、そして夕闇が訪れるとねぐらとなっている城址公園界隈(かいわい)に帰巣するという行動様式をとっているのだ。

 しかし数年前まではもっと多くのカラスがうるさいくらいに鳴き声をあげながら城址公園あたりを埋め尽くしていたのだ。あのヒッチコック監督の名作ホラー映画「鳥」を思わせる有様だった。あの映画の中の鳥のように集団で人間を襲うということはなかったけれど、頭をつっつかれたり糞(ふん)を落とされたりという被害が時おり発生していた。公園管理者である市としては看過する訳にはいかないので檻(おり)を設置したり、カラスが嫌がる忌避(きひ)剤(ざい)をまいたり、巣を取り払ったり、夜間に強い光を当てて追い払うとかというふうにいろいろな手立てを講じてきたのである。

 その成果は城址公園周辺におけるカラスの生息数調査結果にはっきりと表れている。ピーク時の平成19年には11,000羽ほどのカラスが確認されていたものが年々減少し、今は3,500羽程度になってきている。

 しかしそれでもまだまだ看過できない生息数だと思う。新幹線開通後、県外や国外から訪れる観光客が増えていることを考えるともっと思い切った対策を取ることが必要だと判断し、平成29年から今年度までの3年間に8,000万円以上の予算を計上した。今年もこの予算を執行しながらカラスの捕獲や巣の撤去などを行っている。成果としては1年間に2,000羽を超える捕獲実績が出ている。

 それだけ捕獲しているのにもかかわらず、生息数を3,000羽以下に落とすことができない。何故(なぜ)なのだろうか。その理由の一つとして、(僕には理解できないことだが)ある行為が影響しているのである。なんと城址公園周辺や松川沿いの歩道などで積極的にカラスに餌をやっている人たちがいるという実態があった。捕獲や追い払いをしても一方で餌をやる人がいたのではカラスの生息数を減らすことは難しい。そこで給(きゅう)餌(じ)をやめて欲しいとお願いすることとしたが、ハトに餌をやることは良くてカラスに給餌することがなぜ駄目なのかと反論されると規制する術(すべ)がなかった。

 そこで条例で禁止することとなった。3月議会での議決を経てこの7月1日から富山市カラス被害防止条例が施行された。この条例により給餌によりカラス被害を生じさせてはならないこととなった。つまりどんなにカラスが好きな人でも餌をやることはできないということだ。もしもこの条例を守らない場合、罰金を科せられることもあるので注意してほしい。冒頭に書いた侵入禁止看板はそのことを周知するためのものなのである。たとえ蚊さえも殺さないという強い動物愛護精神の持ち主であってもカラスに餌をあげるという行為はしないでいただきたい。条例で禁止したねらいを是非(ぜひ)ともご理解願いたいと思う。

 設置された看板は全部で3種類。それぞれの看板には次のように書かれている。

①「カラス居座り禁止」

②「城下ニオイテ烏(カラス)為る

 モノニ餌ヲ与エル事ヲ禁ズ」

③「烏(カラス)ニ告グ 

 ココデ餌ヲ食ウベカラズ」

 遊び心に満ちている看板である。頭の良いカラスが理解してくれると最高なのだがなあ。

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