森のひとりごと

2020年8月4日

2020.08.04

 昨日の午後、ある病院に入院している父の見舞いに行った。しばらく忙しくて顔を出せずにいたので元気にしているだろうかと気にしながら赴いた。入り口で検温をするなどの手続きを済ませて病室に行ってみると、ベッドががら空きであった。近くにいた看護師の方に「リハビリにでも行っているのですか?」と尋ねると笑いながら違うと答えた。ほかの看護師の人も寄ってきて、楽し気に笑っている。僕が訝し気にしていると、隣に併設されている老人保健施設に入所している母に会いに行っていると教えてくれた。実はこの病院に父が入院していて、併設の施設に母が入所させてもらっているという状況なのである。聞けば、毎週月曜日の午後3時にまだ要介護認定を受けていない96歳の父が病院のスタッフに同行してもらいながら認知症の92歳の母のところに毎週楽し気に通っているのだと言う。もっとも母は、先週も父とあっていたことをすっかり忘れていて、毎週久しぶりに会ったように嬉し気にしているとか。それでも父は毎週楽しみにして会いに行っているらしい。このことを知らされた僕は少しばかり感動してしまった。こんな幸せな夫婦はめったにいまい。96歳と92歳でありながら、週に一度デートができるなんて、それも毎週久しぶりに会ったという思いをするという嬉しさも添えて。先週会ったことは忘れていても、お互いのことは分かっているのだから家族のことや昔の思い出などの話は普通にできるという程度の認知症なのだから、デートは楽しいものに違いない。本当に幸せな老夫婦だと思う。
 そんなことを思っていると、大好きな作品の一つである映画を思い出した。ニコラス・スパークスのベストセラー小説を原作として製作された「きみに読む物語」である。詳細の説明は省くけれど、長い間寄り添った夫婦の一生の物語で、年老いて認知症を患い施設に入所している妻になんとか二人の思い出を思い出さそうとして、夫も同じ施設に入り、毎日のように本を読んでやる時間を設けて、二人の若い頃からの日々を小説を読むようにして語り続けるというストーリーである。わが父に小説風に語り掛ける術はないけれど、来し方のあれこれや子供たちや孫たちのこと、梨畑のことなどを語り合っているに違いない。施設の管理上、僕がそこに同席することはできないけれど、そんな風に想像している。二人の週1デートが永く続くことを願うばかりである。昨日は僕にとっても大変良い1日であった。

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