森のひとりごと

キーワードの効果は?

 僕は旧富山市の市長に就任以来、毎年の執務初め式においてその年のキーワードを披露してきた。年初にあたり、自分自身の心の芯棒を確認するという意味と、職員に対して仕事に取り組む際のヒントとしてほしいという思いを込めてのキーワードなのである。

 市長に就任したのが平成14年1月26日なので、最初の執務初め式は平成15年ということになり、令和2年まで合計18回の式で18のキーワードを発表してきたことになる。令和3年4月に退任するというこの機会に振り返ってみることとしたい。紙面の都合上、すべてを紹介することができないけれど、いくつかを拾って言葉に込めた思いをおさらいしてみたい。

 まずは平成15年、「シンク・ビッグ」、「スピード」というもの。文字通りに大きく大胆に考えてスピード感を持って働こうという意味。平成17年のものはユニーク。「他とは違っているか」、「新しい刺激に満ちているか」、「時の試練に耐えうるか」というもの。知り合いの会社で見かけて気に入り使わせてもらった。自分としては気に入っている。平成21年は「ネクスト・ステージ」。一段落しそうになった時にはもう次のステージの準備ができていなくてはならない。この頃からこのワードを使い始めたのだな。平成24年のものは「イマジネーション」。社会がどのように変化するのかを予測し一歩先を読む力が大切だと言いたかったのだが失敗作だったと感じている。平成25年は「機は熟すると言うが、そのことを待っていると腐敗する」。機が熟するのを待つという姿勢よりも、機を自ら作り出す姿勢が肝要だという意味。重い言葉だと思う。平成29年は「Go Bold(大胆に行こう)  Go Beyond(遠くを見据えて超えていく)」。将来を見据えて、縮こまることなく大胆に思い切り職務に取り組み自身の既成概念を超えていこうという思い。平成30年のものは「音叉の共鳴、そして共鳴の連鎖」というもの。組織が同じ意識や理解を共有することができれば音叉のように共鳴できると言いたかったのだが、誰もこのキーワードには共鳴してくれなかった。そして令和2年、「新・とやま新時代」というものを掲げた。路面電車の南北接続後の新しい時代の創造に向けて大胆な発想と行動力を持って頑張ろうと訴えたのだが、まさかコロナ禍という新時代になるとはね…。

 この19年の間に富山市役所という組織は確実に変化してきたと思う。それがキーワードの効果だとは言わないけれど、時代の変化を見据えて自らを変えていこうとする姿勢は広がったと確信している。もとより、大きな組織、集団なのだからいろいろな個性の集合体だ。中には僕の呼びかけに反発した人もいるだろう。逆の意見の人もいただろう。無視した人もいるだろう。でも共感してくれた人もいたに違いない。そんな人が一人でもいてくれたとしたら満足だ。おかしなキーワードに付き合ってくれた職員に感謝したい。

 さて、アメリカには「ハネムーン期間」という言葉がある。何かの運動のキーワードとは違うけれど、1月20日にバイデン新大統領の任期が始まるというタイミングなので本稿で紹介したい。「ハネムーン期間」とは政権交代後の最初の100日間のことを指す。アメリカでは報道機関も野党も、この100日間は新政権に対する批判や性急な評価を避けるという紳士協定がある。良い文化だと思う。

 僕の任期はあと100日余りとなった。集中して仕事に邁進したいと思っている。「ハネムーン期間」の逆の時期、最後の100日間にあたることから、暖かく支援していただきたい。(はたしてハネムーンの対義語は何て言うのだろうか?)

 ところで、今年のキーワードは?

「立つ鳥跡を濁さず」とでもしますかな。

エッセイ関連記事

週刊ブログ

エッセイ