雑感 若い力と運動会

森 雅志 1998.10


 秋も盛り、あちらこちらで運動会の声が聞こえてくる季節である。

 高い青空、輝く陽光、そしてさわやかな風が流れるなかに響き渡る若者の歓声。そんな時、ふと気がつくと稲穂の匂いが鼻孔をなぜて行く。なぜかしら懐かしい光景だ。そんな光景を想っただけでほんの瞬間、純真さを取り戻したような気になる。

 子供の頃、運動会と言えばブラスバンドの演奏に合わせて「若い力」を歌ったものだ。「若い力と感激に、……」と歌いだすこの歌が大好きだった。子供も大人も、先生も父兄も、みんなで同じ歌を歌うことがうれしかった。あの頃はきっと日本中で同じ光景が見られたに違いない。

だからあの頃の運動会を知るものは皆、「若い力」をその共有のものとして記憶しているのだ。

 私が参加しているある団体は、いろんな行事の打ち上げをするたびに参加者全員がスクラムを組んで「若い力」を歌う。全員が大きな声でうれしそうな表情で歌う。ああ、やっぱりみんなこの歌が大好きなんだな!と実感する。そうやってやがてみんなの心が一つになっていく……。

 中学校三年生の長女が今年の運動会の練習が始まった日にくやしがって話した。

 「お父さん、私は『若い力』が大好きなのに今年からは歌わないことになった。」と。娘もこの歌が好きだったことは嬉しかった。同時に私は名曲「若い力」もこうやって消えていくのだなと嘆息したのである。これも時代のうつろいか。



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