モアイ像の嘆き

森 雅志 2003.02.21


 イースター島にある有名な石像遺跡のモアイ像に落書きをした大馬鹿者の日本人がいたと報道された。
 モアイ像に自分の名前を彫っているところを発見され逮捕されたのだ。修復不能だというからあきれて物が言えない。僕は写真でしかモアイ像を見たことはないけれど、その不思議な存在にある種の神秘性を感じている。またその表情は「寂しさ」や「悲しみ」をも漂わせていると思う。それだけに傷ついたモアイ像の嘆きが聞こえてきそうだ。
 この男にしてもモアイ像に魅了されて島に渡ったに違いない。そしてモアイ像に接した瞬間には興奮と感動を覚えたことだろう。しかし馬鹿者の心理はここからおかしくなっていったのだ。自分がそこにいたことの記念にと、歴史と文化に対して取り返しのつかない破壊行為を働いてしまったのである。
 彼の行為は同時に日本人像をも破壊しと言えよう。今回の犯行は街の落書きとは比較できないほどの大犯罪である。僕らは絶対にこの犯人を許してはならない。お気楽な悪戯(いたずら)ではすまないことを知らしめなくてはならないのだ。
 しかしながら新聞もテレビもこの犯人を匿名で報道していた。我が国の文化財保護法などに抵触したわけではなく、犯罪者ではないとの判断が働いたものなのだろう。しかし国内法で裁けないのなら、マスコミが実名報道することで馬鹿な行為に対して社会的な制裁を加えるべきではないのか。僕は決してノゾキ趣味者ではないけれど、破廉恥な行為をした者は実名報道されても仕方がないと思う。この事件の行為者が帰国後、何もなかったかのように日常生活に戻っていくかと思うと納得できないと思うのは僕だけだろうか。
 このモアイ像については日本のクレーン業者がユネスコと共同で復元修復作業をボランティアで続けている。一つの島の中で日本人による正反対の行為が同時に行われていたということだ。ボランティアの皆さんにすれば、僕ら以上に腹の立つ思いだろう。彼らのためにせめて声援を送ろうではないか。
 そして馬鹿な日本人の行状が報道された時こそ、本来日本人が有している誠実、正直、廉恥心、奉仕性といった美徳について考えてみることが僕らにできることなのではないかと思う。

2003.02


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