グスコーブドリの伝記

森 雅志 2009.11.05


 「グスコーブドリの伝記」は1932年に宮沢賢治が発表した童話である。正直に言うと、つい最近までこの作品のことをよく知らなかった。若い頃に「童話集 風の又三郎」を読んだ記憶があるものの、この作品についての記憶が全く残っていない。ところが最近になって、地球温暖化についての論文集の中でこの作品について触れたものがあり、触発されて読んでみた次第。
 内容は賢治の童話らしく、イーハトーブの森で暮らしたグスコーブドリという男の生涯の話。冷害や旱魃に苦しみながら成長し、火山噴火被害の軽減や人口降雨に取り組みながら、最後は身を挺して冷害の再発を止めるという話である。そしてこの冷害を止める手法が温暖化に絡んでいるのである。1932年に書かれた作品であるにもかかわらず、賢治は二酸化炭素を増やすことで気温を上げ、冷害を防止するというストーリーを展開しているのである。
 二酸化炭素と温暖化の関係について積極的に語られるようになったのは最近のことだと思っていただけに、宮沢賢治の科学者としての知識や視点に驚いた。科学の力で人々を救いたいという賢治の夢を感じることが出来る。この作品では温室効果を冷害防止という肯定的な形に結び付けているのだが、逆説的に言えば温室効果が大きくなると地球全体の気温が上昇すると暗示しているとも言える。
賢治の時代は冷害が問題だったのだが、現代は温暖化が進み南極や北極の氷が溶け、ヒマラヤ山脈の氷河が溶けだしているのだ。先日はアフリカのキリマンジャロ山頂の万年雪が消えてなくなりそうだという記事を読んだ。このままではヘミングウェイの名作「キリマンジャロの雪」もタイトルから受けるイメージが変わってくるかもしれないなあ。
地球温暖化の問題はそれくらいに深刻な状況にあるのだ。氷が溶けるだけでなく、海面上昇や降雨量の増大、異常気象、災害の頻発と大規模化、生態系の変化、食糧事情への影響などと連鎖していくこととなる。やがては世界経済全体に深刻な結果をもたらしかねないのである。したがって何とかして温暖化の進行を止めなくてはならない。そのためには温暖化の最大の要因である二酸化炭素を減らすことが重要なのである。
 人類は産業革命以来、ガソリンなどの化石燃料を燃焼して二酸化炭素を排出し続けてきた。賢治が夢見たように冷害を防ぐ程度の温暖化に留まってくれれば良かったのだが、我々は豊かな生活を享受しながらおびただしい量の二酸化炭素を排出し、あるべき地球環境を破壊するくらいの温暖化をもたらしてきたのである。賢治が現代によみがえり、エネルギー消費を続ける日本の生活を見たらどう思うのだろうか。
二酸化炭素の削減はもとより個人の力だけで出来るものではない。しかし個人で出来ることも確実にあるのだ。家庭において使用エネルギーを減らすように暮らし方を見直すことはすぐにも出来る。小さいことから始めるとしよう。



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