お酒2本ください

森 雅志 2010.05.05


 過日、東京のあるホテルのラウンジで食事をした際に面白いことがあった。注文を取りにきた若いお嬢さんに「とりあえず、お酒を2合ください。」と頼んだところ怪訝な顔を見せていた。やがて彼女が運んできたものは1合入りと思しきガラス瓶と杯が二つであった。僕らは二人なので先ずは2合欲しかったのだと言ったところ、返ってきた言葉に驚いた。「だったらお酒2本と注文してください!ニゴーじゃ分かりません。」という次第。2本欲しいのなら2本と、3本欲しいのなら3本と言うべきだという指摘は全くそのとおり。僕は素直に「もう1本追加してください。」とお願いしたのであった。
 ホテルのラウンジという洋風の場所とは言え、お酒2合という表現が通じなかったことが面白かったのである。もはや若い世代には1合とか2合とかという量の単位は通用しないということか。こういう場合ははっきりと、180t入りのお酒を1本注文しますとか、熱燗を360t下さいとか言わなくてはならないのだ。もっとも過日の店のガラス瓶には7勺ぐらいのお酒しか入っていなかったので、こういう場合には約126t入りのお酒を1本などと注文するのだろうか。(いくらなんでも皮肉が過ぎたかな。)僕が言いたいのは、どんどん風情のない時代になっていくのが心配だということなのだ。
 たしかに昭和41年以来、尺貫法の単位を取引および証明の計量に用いることが禁止されている。日常生活においても尺貫法による単位は年をおうごとに衰退しており、今はほとんどがメートル法の単位で通す社会になっている。しかし長さ、重さ、面積、体積などについての日本古来の単位は日本語の中に今も生きているのだし、生活のいろんな場面において使われているのだ。先のお嬢さんだって、2合が分からなくても一升瓶は知っているに違いない。そして今も現役で使用されている尺貫法の言葉が日本的な情緒や風情をもたらす意味で役に立っているのだと思う。例えば、洋服の採寸の場合はoやpを使っても、和服の仕立てのときは尺や寸で採寸する方が感じが出るように…。
 その意味において尺貫法の単位を大切に使っていきたいと思う。もっともかく言う僕の尺貫法も怪しいものだ。一石の米はいったい何升なのかなどと問われると即答できない。いやはや情けないものだ。先のお嬢さんのことを言っていられないなあ。
ちなみに現在の僕の身体を尺貫法で表記すると次のようになるのだが分かりますかな。
身長5尺6寸、体重19貫、足は10文3分。

 ついでに言うと、尺貫法の単位のみならず物の数え方、助数詞についても最近はずいぶんと乱れてきているようだ。豆腐一丁とか、ざるそば一枚とかを聞かなくなった気がする。何でも彼でも「1つ、1個」で済ませてしまう風潮なのである。このことについても如何なものかと思う。なるべく正しい助数詞を使いたいものだと思う。これもまた日本語の情緒や風情につながる問題だと思うからである。
せっかくの機会なので、次の物の数え方、助数詞について思い出してみたい。
 ウサギ うちわ こんにゃく 蝶 電報
 手袋 握りずし はさみ まな板 和歌


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