お茶の間暮らし

森 雅志 2013.02.05


 今回は「サザエさん」の話から始めたい。
 サザエさんの家にはときどき三河屋のサブちゃんという若者が御用聞きにやってくる。あの時代にはわざわざ買い物に出かけなくても商店のほうから注文をとりに来るというサービスが成立していたのである。あるいは魚屋さんなどが直接軒先まで行商に出かけてくれたのである。そのおかげで忙しくて買い物に出られない家庭であっても何とか炊事が回っていたのだ。
 もう一度サザエさんの家族を思い出してみよう。磯野家にはサザエさんとその母であるフネさんという2人の専業主婦がいた。そのおかげで充分に家事をこなすことができていたのだ。夕餉のための買い物に行く時間もたっぷりと取れ、近くのお店まで買い物籠を提げて歩いて出かけていたのである。のんびりとした時代であったのだ。
 そのうち、あちこちにスーパーマーケットという新しい形態のお店が出現する。八百屋に肉屋に酒屋というふうに専門店が分かれて存在していたところに、食料品の総合小売業が登場したのである。サザエさんもそこに買い物に行くようになり、サブちゃんの出番も減ってしまうことになったのだった。
 やがて車社会になってくると、郊外に大型のショッピングセンターや量販店が出現する。安くて多品種な品揃えは魅力的であり人々はマイカーでそこに足を運ぶことになる。その結果、街からお店が消えていくことになった。三河屋のサブちゃんはどうしたのだろうか。(田舎に帰ったのかもしれないなぁ。)
 近くのお店が無くなっていくと街の人々も郊外の食品スーパーに出かけるしかないのだが、運転免許のないサザエさんやフネさんにとっては一苦労ということになったのであった。運転ができる人であっても大型店の駐車場は広大なため雨の日などは大変ということになる。いずれにしても、高齢者や車に乗れない人にとって買い物に不自由するという深刻な状況があちこちで起きてきたのである。いわゆる買い物難民という問題である。
 ところが、そうなったらそうなったで新しいビジネスが生まれるもので、あちこちにコンビニという現代のよろず屋とでも言うべきお店が出現してきた。そのうえに最近はさまざまな宅配サービスが盛んになっている。毎日夕食の材料や調理品を届けてくれるサービス事業者はたくさんあるし、単品であっても肉や野菜を配達してくれるサービスも始まっている。コンビニに電話などで注文すると自宅に届くというサービスも開始されたようだ。ある宅配便の会社では高齢者に代わってスーパーに行って買い物を代行してくれるサービスを検討しているらしい。新しいサブちゃんの登場ということなのだ。高齢者の一人暮らしが増えるという時代に合ったビジネスモデルと言えるだろう。買い物もクリーニングもその他のサービスもお茶の間にいながら解決するという地域が増えていくことになるかもしれない。お茶の間暮らしとでも言うべき時代が来るのかもしれないなあ。サザエさんも一安心というところか。
 でも安心の先に心配もある。お茶の間暮らしの結果、あまり外出しなくなり、足腰が弱り、誰かと話すことも減ってしまうという生活になりかねない。着替えさえしないという不健康な毎日になりかねない。横着な僕などは本当にそんな生活になるかもしれないなあ。
 そうならないためにも外出することが肝要だと強調してこの稿を閉じたいと思う。



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