入浴マナー考

森 雅志 2017.02.05


 年末に鳥取方面に行ってきた。内閣府の会議でご一緒した平井鳥取県知事から勧められたこともあり、いくつかの美術館や博物館を巡ってきたのだ。
 敦賀からの舞鶴若狭自動車道が全通したことで快適に舞鶴に到着。初めて赤レンガ倉庫群を見物した。なかなか良い観光資源だと思った。続いて豊岡市に移動して豊岡市立コウノトリ文化館を見学。ここに行くのは2度目なのだが、ラッキーなことに今回も両翼を大きく広げて飛び立つコウノトリを見ることができた。ここでは職員や駐車場の整理員の対応の良さに感心した。
 そしていよいよ鳥取県に移動。鳥取市では地震の爪痕を感じることがなく、砂の美術館の素晴らしさに圧倒されたが、倉吉市では随分と地震の影響を感じさせられた。宿泊した三朝温泉でも使用禁止となっている旅館があった。「風評被害もあり温泉街は大変なのだ」と語っていた知事の本音を実感した。
 倉吉市には日本で唯一の梨のテーマミュージアムである鳥取二十世紀梨記念館「なしっこ館」があり、訪ねることができた。ユニークな展示に驚いたし感心もした。面白かったのは王秋梨という品種の大きな梨一個にお守りと手ぬぐいとを組み合わせて「合格まちがい梨」セットと銘うち、なんと3939円で販売していることであった。どこにもアイデアあふれる人がいるものだと思わされた。
 さて前置きが長くなってしまったが、今回の旅でいちばん素晴らしいと感じたエピソードを披露したい。それは2泊した旅館で同宿したお客さんたちの入浴マナーがお手本のように気持ちの良いものだったということである。驚いたことに大浴場で出会ったすべての人がそうであった。とりわけ偶然にも夕方と朝の2度大浴場で出会ったイギリス人の青年のマナーの良さには驚かされた。来日してすぐに同じイギリス人の先輩から銭湯での入浴マナーを仕込まれたのだと話してくれた。お湯に浸かる前に頭と体を洗うこと、身体に残ったシャンプーや石鹸をしっかり洗い流すこと、使用した風呂桶や座っていた台をシャワーで洗い流すこと、そしてお湯の中にタオルを浸けないことなどを教わったのだと教えてくれた。まさにお手本そのものという入浴マナーである。誠実そうな青年であった。こういう若者に出会える旅はそれだけで感動の旅となる。思い出に残る出会いであった。
 大浴場を共用する入浴方式の本家である日本人の中にときどきマナーの悪い人がいて不快になることがある。ひどい人になるとかけ湯さえしないでいきなりザブザブと湯に浸かり、平気でタオルを湯の中に入れてしまう人がいる。こちらが先にお湯に肩まで浸かり気持ちよく入浴しているところに後からマナー知らずの人が入ってくるといっぺんに興ざめということになる。ゴルフ場などで何度かそんなマナー知らずの人に遭遇したことがあるが、その人が知り合いで困ったということさえある。まさか注意する訳にもいかず、黙してお風呂から出ることとしかできないのだけれども…。かく言う僕も、大学に入学してみて初めて銭湯に行ったのであり、その際にかの青年のように先輩から厳しく躾けられたのである。内風呂だけで生活しているとマナー知らずになりがちなのかも知れないけれど、大浴場を共用するという入浴方式は日本の一つの文化だと思うのでお互いに気を付けたいものだと強く思う。
 この文章を書いていて気付いたのだが、あの時にあの青年のマナーを褒めるだけじゃなく冷たいビールを御馳走してあげるべきだったなあ。それにしても良い旅であった。



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