森のひとりごと

果樹手伝い

 僕の任期があと1年間となったことから、最近、退任した後の自分の状況を想像して楽しんでいる。遊び心で、フリーになった後に使う名刺の素案を考え、試作してみたりもしている。パソコンで作ったものを何人かに見てもらったが、全員が面白がってくれた。普通の名刺サイズの紙の上部に大きな幸水梨の写真を配し、下部には横書きで名前、住所、電話番号、メールアドレスが並んでいる。これだけでも面白いのだが、やっぱり何らかの肩書が必要だろうと思い至り、編み出した肩書が「果樹手伝い」というものである。さらに、自らの経験の無さを示すために小さな文字で(見習い)と付記されている。家事の方は何とかこなしているので手伝いではなく主体だと思うけれど、農作業の方はまだまだ見習いなので、「家事手伝い」ではなくて「果樹手伝い」なのである。まだ1年間あるので名刺についての修正や見直しがあるだろうけれど、この肩書はぜひ使いたいと思っている。

 さて、肝心なのは農作業をどうやってこなしていくのかということ。僕は梨農家の長男でありながらこの歳までほとんど農作業をしないまま生きてきてしまった。もちろん若い頃から時には人工授粉を手伝ったり収穫作業に加わったりはしてきた。それとてもほんの数日間のことである。いつかはやらなきゃと思いながら踏み込むことができずにきたのである。しかしながら現在96歳になる父が老体でありながら楽しんで梨づくりに精出している様子を見ていて、一昨年あたりから梨づくりの作業や手順を少しずつでも体験していこうと思い至った。もう若くはないのだけれども、自分の原点である農の心に触れてみたいのである。果樹見習いから始めてみたいと思っているのである。昨年の夏には摘み取り、箱詰め、出荷という収穫作業を初めて通しでやってみた。秋には父の指導の下、剪定作業を手伝い、肥料をまいたりした。もっとも防除や剪定や誘引・枝縛りなどという作業はこれからも専業の人にお願いしていくしかない…。それでも何とかできそうなことから少しずつ取り組んでいきたいものだと思っている。

 過日は、姉夫婦に手伝ってもらいながら梨の花を採取し花粉の採葯、開葯作業をしたけれど、素人3人を見かねてか、何人もの人に助けてもらった。そして人工授粉作業である。子供の頃に手伝ったことはあってもほとんど初挑戦であった。とりわけこの作業は開花状況と天候に左右される。そして人手も必要だ。悩んだ末に、農業サポーターの人たちの協力を仰ぐこととなった。お蔭さまで3人のサポーターに来ていただき、友人にも加わってもらい何とかこなすことができた。ちゃんと実がなれば次は摘果作業である。こうやって僕の見習い作業は続いていくのだ。

 さて、手伝ってもらった農業サポーター制度について紹介してみたい。農業サポーターとはわが家に来てもらったように、農繁期などに農業者の元に出向き、有償で農作業の手伝いをする人材グループなのである。もともとは、僕のように農家の生まれでありながら農業から遠ざかっていた人や、非農家であっても農作業に興味のある人たちのために農業技術を習得してもらうための学校である「とやま楽農学園」を開設したことに遡る。この「とやま楽農学園」の狙いは必ずしも就農者を増やすことではなく、空いた時間に楽しみながら農作業に従事して農業者の力になってもらうサポーターの育成にある。現在、そのサポーター登録者が530名ほどいて、野菜農家、果樹農家、花き農家などの協力者として活躍している。農家は繁忙期に働き手を得ることになりサポーターは自分の余暇時間に謝金を得て農作業を楽しむという良い関係が築かれているのだ。これからも続いていくと良いと思うのだが…。

(関心のある方は営農サポートセンターまでご連絡ください。)

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