森のひとりごと

2024年11月23日

2024.11.23

(ヨタ話の二題目)

「ハチ公やっと来たかい。」
「なんか面白ぇ話でもあったんかい。こんな朝っぱらから呼びつけてよ。」
「いやあ、夕べ(ゆんべ)俺んちの長屋の前を邦ノ進の旦那が通りかかってな、開いた口がふさがらねぇっていう話をきかせてくれたんでね。こりゃ早速おめぇに教えなきゃならねぇってことで来てもらったってわけよ。」
「で、どんな話なんだい?」
「いやあおめえも知ってるとおり、先月はお代官様の藩職延長に向けての世評獲得運動があったろ。」
「ああ、お代官の職が続くようにっていう、まあ猟官運動だよな。それについちゃ、邦ノ進の旦那をはじめとした郡内のお役人や各ムラのダンナ衆なんかがいろんな場所に人を集めて演説会をするなどみんな一生懸命だったよなぁ。」
「そいでな、この運動の最終日には邦ノ進の旦那のお足元のムラをはじめとしてあちこちで人を集めていたらしい。邦ノ進の旦那の方でも大店の浪速屋の前に場所を作って、何人ものお役人も仕事を途中で切り上げたりしながら集まっていたらしい。ところがな、肝心のお代官である田沼さまがこの集まりに来なかったんだってさ。お代官様の話を聞こうってんで集まってるっていうのにどぅなってんだよってことになったらしい。田沼さまの家中の者に聞いてみても、家中の者もよく知らないらしくって『田沼さまは来ません。』の一点張りだったらしい。仕方なく不平を言いながら解散したらしいんだけどね。驚くのはこの後なんだよ。」
「なんだい、なんだい。気が急くじゃねぇか。」
「解散したところで邦ノ進の旦那のところに早飛脚便が来てね。田沼さまが集会をすっぽかして何をやってたのかが分かったっていう次第さ。」
「で、何やってたんだよ。」
「なんと田沼さまとご内儀とが一緒になって、お子のために幕府系の寺子屋の説明会と参観に行ってたんだよ。早飛脚便を出した人からは『さすがは田沼さまだねぇ。余裕いっぱいだね。運動の最終日にお子の参観日だもんなぁ。』って書かれていたらしい。」
「いやあ、そりゃあ大した余裕だね。集まっていたお役人たちもたまったもんじゃないね。まったくやる気が失せてしまったことだろうよ。]
「そりゃそうだろうよ。お家を改修するからとお手伝い普請を頼んでおきながら本人は家族でお伊勢参りをしてましたってことだろう。」
「運動の最終日にそんなこったあ,ホントに空いた口がふさがらねぇよなあ。自分だけのことを考えている大したお人だと言うべきなのかねぇ。オイラにゃ真似できねぇよな。まあ、茶席に座らない人からも席料を取るような人だからねぇ。無理はねぇか。」
「でもまあ、これからはお役人やダンナ衆にお手伝いを頼んでも誰も相手にしないだろうけどね。」
「間違いねぇ。お普請の職人たちだって仕事を受けねぇだろうよ。少なくとも俺はやらないよ。手前でおやりになるから平気なんだろうけどもねぇ。まあ、いろんな人がいるから娑婆が面白いってことだろう。」
「ホントだ。娑婆だねぇ。朝っぱらから呼びつけて悪かったな。じゃあな。」
「おーよ。またなんかあったら教えろよな。じゃあな。」

(またまたおバカ話を書いてみました。人生いろいろってとこですかな。)

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